人の輪の中にあるクルマ
ネッツトヨタ富山本店をリニューアルすることになった2009年は、ちょうど三代目プリウスがトヨタのすベての販売チャネルで扱えるようになったタイミングだった。つまりは、同じ車をどのディーラーでも買えるという新しい時代に突入し、商品だけで差別化することが難しくなり、どうやってお客様にネッツトヨタ富山を選んでもらうか? 店舗リニューアルも旧態依然としたディーラーとの「差別化」が大きなテーマとなった。
車は飾るものではなく、街を走るもの。その基本に立ち帰り、街に車が溶け込む風景を再現しようという方向性が固まった。入り口から続くコンコースには石畳が並び、街灯や花壇を設けた。いろいろな人が集まる「駅」をテーマに、そこから旅がはじまるようなイメージが店舗全体で表現されている。
「車に興味のある人もそうじゃない人も、いろんな人が行き交う街のコミュニティースペースのような空間にしたくて、地域の方々に店内の広場を無料で貸し出しているんです。日曜日にはお店の中で、フリーマーケットや子どものフットサル大会などが催され、過去には結婚式を挙げられたカップルもいらっしゃいました。
ネッツトヨタ富山という場所を通して、いろいろな人が出会って、賑わいが創出されることで、建物自体に価値を生み出しているという風に感じているんです」
多様性を認めて、対応力を引き出す
ネッツトヨタ富山 砺波店は、散居村や木彫りの町のイメージを表現して木を感じられる店舗に、高岡西店は、カフェと併設したよりカジュアルな店舗に設計されている。お客様に快適に過ごして頂き、ネッツトヨタ富山ならではの付加価値をどう生み出すかという命題への答えが店作りに反映され、笹山社長はその想いを各店舗のスタッフに伝えて意識の共有を図っている。
商品だけではなく、ハード面、ホスピタリティも含めたソフト面で「選んで頂けるお店」になることが重要なテーマ。従業員全員に楽しく働いてもらいたいという笹山社長の想いは、店舗づくり以外にも及び、TOMORROWLAND、Scyeといった国内ブランドと打ち合わせを重ねて、スタッフの制服を一新した。
「全店舗の新築や改装のデザインを五割一分さんに依頼し、それぞれの地域性を盛り込んだ店舗づくりを行いました。制服についても、当社の想いを共有して頂ける素晴らしいブランドを提案頂き、そのディレクションにも大変満足しています。制服が変わってから、若手もベテラン社員も靴やネクタイなどに気を遣い始めて、みんながファッションを楽しむようになったんです。一人ひとりの工夫が生まれたことは、会社にとってもすごく大きな変化でしたね。
車はもちろん大事な商品ですが、働く人の気持ちは何よりも大切なので。店舗の個性やスタッフの多様性を認め、いきいきと働いてもらうことで、いろいろなお客様と、楽しく深いお付き合いをさせて頂けるお店でありたいと思っているんです」
進化を続ける“脱ディーラー”
2018年にネッツトヨタ富山は創業50周年を迎えた。その際のノベルティとして、氷見市のSAYS FARMで作られたワインにオリジナルエチケットをラベリングし、取引先と全社員にプレゼントした。また、50周年を記念した企業CMを3本制作。ラストカットに流れるグラフィックはファッションデザイナー 皆川明氏に制作を依頼した。5色の曲線が交差したグラフィックは、これまでの50年の紆余曲折の様子、いろいろなお客様やスタッフの想い、そして車が走る道…さまざまな意味が込められている。
添えられたコピーは、「進め 次の半世紀」。50年ありがとうではなく、これからの50年に向けてと言う前向きなメッセージだ。店舗のリニューアルから始まった様々な取り組みによって、店舗へ足を運ぶことが以前より楽しみになったというお客様からの声が増えているそうだ。
「 “居心地の良さ”、“ワクワク感”をキーワードに、従来のディーラーとはかけ離れたネッツトヨタ富山流を信じて突き進んできました。結果、それが多くの人に受け入れられて、ようやくスタンダードになろうとしているんだなと。今後は、例えば免許を返納されるご高齢の方にも足を運んでいただけるような、地域のすべての方に必要とされるお店にもっともっとなっていけたらと考えています。そのためにはスタッフのアイデア、そして地域の方々との交流から、新しい価値を創造し続けていきたいと思っています」
DATA
ネッツトヨタ富山株式会社
富山県富山市新庄本町三丁目3番33号
竣工当時の写真はこちらからご覧いただけます。