巡りあわせ
大学進学を機に富山から上京し、卒業後はマーケティングや商品開発の分野でキャリアを積んでいた奥様。多忙を極めた日々、体調を崩したときに通ったのが、通勤路の途中にあった漢方薬局だった。会社を辞めて、帰郷すると決めたのは30歳のとき。「漢方を突き詰めて、いつか開業で」と一念発起。富山大学医学部を受験する決断をした。
東京生まれのご主人は、東北大学の理学部で地学を専攻。それまで富山には縁もゆかりもなかった。「正直、大学で学んでいる分野にあまり興味がなくて、大学に行きながらも彷徨っている感じでした。鍼灸師になって、畑でもしながらゆっくり生きていきたいな…と何となく考えていたんです」と、ご主人は振り返る。何となく描いていた“鍼灸”というキーワードから、「東洋医学であれば自分の感覚を磨けるかもしれない」と、卒業後に富山大学医学部への進学を決意。
学年も、年齢も違う二人を引き合わせたのは、富山大学の医学部と薬学部の有志が集っていた「漢方サークル」だった。
理想の場所
理想の空間
結婚した当初、遠い将来像として「2020年には開業しよう」と漠然と話していた。“期日”が近づこうとしていた頃、知人のつながりで五割一分のオープンハウスに二人で出かける機会があった。
「それまでは診療所もテナントでいいと思っていたし、住居に対するこだわりもありませんでした。けど、家を見させてもらって、“こんな感じになるなら建ててみたいな”と素直に思えたんです」と奥様。「飛び込みで来てもらう病院ではないので、目立たない場所が理想でした」という希望通りの土地もすぐに見つかった。
大通りから一本路地を入ったのどかな住宅街。一面モルタル調の外壁に、大きくとられたタイルのアプローチ。さりげなく置かれたモノトーンの看板には「漢方内科けやき通り診療所」の文字がある。落ち着いた佇まいながら、存在感を放っている。
「ずっと心地良い」
ということ
診療所のエントランスでは、大きなサルスベリの木が出迎えてくれる。扉を開けてまっすぐ進んだ待合室の先には、大きな窓に庭が広がる。患者さんと時間をかけてじっくりと向き合う診療所だからこそ、四季の移ろいを感じながらくつろげる空間にこだわった。
お気に入りのファブリックのソファや、「好きなもの」をランダムに飾ったという絵画が、落ち着いた空間にアクセントとなっている。
「以前から五割一分のショールームを見てセンスの良さは知っていたので、建物をお願いするなら診療所のホームページもロゴタイプも含めて、ブランディングはすべてお任せしようと思っていました」と奥様。診療所の評判を聞き、県外からわざわざ足を運ぶ患者さんも多い。開院から一年も経たないうちに、たくさんの人にとって替えの利かない、なくてはならない場所になっている。
診療が終わって自宅でくつろぐ時間も、自然と話題は漢方のこと。「良い意味でライバルですね。議論して、患者さんの症状が良くなると二人で喜び合えるんです」とご主人。10年、20年先、二人が目指す「良いクリニック」がどんな姿になっているのか楽しみだ。
DATA
漢方内科 けやき通り診療所
富山県富山市新根塚町1-5-38
竣工当時の写真はこちらからご覧いただけます。