カール・ハンセン&サン社とは
カール・ハンセン&サン社(Carl Hansen & Son)は、有名すぎる北欧のアイコン的椅子「Yチェア」を1949年の発表以来、全世界で実に数十万脚以上、絶えることなく生産し続けているデンマーク生まれのファニチャー・ブランドだ。
カール・ハンセン&サン社の創業者カール・ハンセンは、腕のいい伝統的な家具職人でもあったため製品の質を大事にしていた。創業当時はまだクラシック家具が主流であり、人々は工房で購入したり、特注したりしていたが、1920年代に入ると時代は、次々と出てくる生産数だけを重視した「安価な量産家具メーカー」か、新しい技術や設備投資を怠り、職人技だけに頼らざるを得ない「昔からの家具工房」かの大きく2分化していた。
そのような中、カール・ハンセン社は「一般庶民が購入できる、手仕事を中心とした工房家具に根ざした質の高い量産家具」を作ろうとしたのだ。また、後に家具業界革新の原動力となる「職人とデザイナーの共同作業」がまだ一般的ではなかった1940年代、カール・ハンセン社は当時既に業界で名の知られていたフリッツ・ヘニングセン(Frits Henningsen)との共同でモダンな製品の生産をいち早くスタートしている。
妥協の無いクラフトマンシップへのこだわり。
時代を見越した工業化への取り組み。
そして、新しいデザインを追求してやまない優れたデザイナーとの協働。
これらがカール・ハンセン社の歴史を支えた。
時代とともに手仕事の家具工房が廃業していく中、カール・ハンセン社は、それらの名工が製作していたアイコニックな名作の権利を取得し、デンマークモダンデザインを次の時代へ継承しつづけている。この記事ではそんなカール・ハンセン&サン社を語る上でかかせないキーパーソンやプロダクトを通して、同社について紹介する。
Yチェアはデンマーク家具メーカー品質管理の保証を受けた最初の製品。前後に揺れる動きにどれだけ耐えられるか。5万回が基準なのに対しYチェアは25万回をクリア。それ以上続ける必要がないという判断から試験が打ち切られたほどであった。
カール・ハンセン&サン社がウェグナーに出会う前の1940年代初頭、フリッツ・ヘニングセン(Frits Henningsen)によって同社のためにデザインされたウィンザーチェアCH18は、2003年まで製造された。当時、伝統的な家具職人ギルド展を先導していた著名なコペンハーゲンの家具職人だったフリッツ・ヘニングセンは、デザイナーの肩書きを嫌ったが、家具デザイナーとしても優れた才能を発揮していた。
ヘニングセンと仕事を希望するメーカーは数多くあったが、ヘニングセンは作る家具はすべて自分でデザインし、自分で製品化し、自身の店で販売するのが常であったため、誰とでも仕事をするわけではなかった。また、生涯妥協のない完璧主義を貫いたヘニングセンは、自分の死後はデザインした全ての設計図などは処分するように遺族に残していたと言われている。
ハンス J. ウェグナー(Hans J. Wegner)との出会い
1940年代、既に名の知らていたフリッツ・ヘニングセンとの共同作業により、業界での注目を集め、デンマークの家具販売店もカール・ハンセン&サン社に敬意を示すまでになっていた。
二代目社長だったホルガー・ハンセンは、大戦の終結に伴い、国際市場の進出を考えていた頃、フリッツ・ヘニングセンを介して知り合ったアイヴィン・コル・クリステンセン(Ejvind Kold Christensen)を販売エージェント(営業)として雇用した。コルは、トレンドに対する素晴らしいセンスを持っており、次に家具業界にどんな流れが出てくるのかを察する顕著な才能と、美的センスを持ち合わせていたのである。また、前職の大手張地メーカーの職人としての経験から、良質な仕事を見極める目を兼ね備えていた。
こうしたバックグラウウンドと資質を持つコルは、すぐにホルガー・ハンセンの良き理解者となりアドバイザーとして活躍した。そうした中、コルの目に留まったのが、当時多くの展示会で注目を集めていたハンス J. ウェグナー(Hans J. Wegner)であった。
ハンス J. ウェグナーは当時、家具工房から展示会に作品を発表するほか、建築事務所からもプロジェクト用に家具をデザインしていたが、商業的にはまだ成功していなかった。コルは、「年1回開催される展示会に参加してもそこに将来はなく、デザインを家具メーカーに持ち込むべきだ」とウェグナーを説得。「そこで家具は営業され宣伝され、より幅広く人の手に渡っていく」と。この出会いが、同社との長年に及ぶ協働の始まりであった。
1949年ウェグナーはカール・ハンセン&サン用にイス4点をデザイン、いずれも1950年から販売が開始。この時デザインされたのがウェグナー不朽の名作椅子 “Yチェア”ことCH24である。Yチェアは発売以来、何十万脚も生産され今日も世界中で愛されている。
優れた家具職人であったばかりでなく、商才にも長けたホルガー・ハンセンは、ハンス J. ウェグナーとともに、工業生産が難しいと思われた高品質家具の生産に着手。まだ無名のデザイナーに社運を託すことはホルガー・ハンセンにとって大きな冒険だった。発表されたデザインはすぐには評価されなかったものの、2,3年後にはデンマークばかりか、海外でも大きな反響を得ることとなった。
アイヴィン・コル・クリステンセンとサレスコ(SALESCO)
ホルガー・ハンセン、アイヴィン・コル・クリステンセン、ハンス J. ウェグナーの3人はその共同作業をより確固たるものにすべく、他の4社の家具メーカーと共同で、ウェグナー家具の販売と営業を行うユニークな販売会社「サレスコ(SALESCO)」を1951年に設立。
当時、カール・ハンセン&サン社では機械加工で量産できる椅子を、テーブル類はアンドレアス・ツック社、布張りのイージーチェアはAPストーレン社、ソファやデイベッドはGETAMA社、収納製品はRyモブラー社が製作していた。当時は、現代のように1社の工場設備で全ての種類の家具を製作する事が難しい時代であったため、ウェグナーはメーカーごとに得意分野をわけてデザインを提供していた。
サレスコは、1950年から60年代にかけてウェグナーの家具を独占的に国内外に販売。デンマーク家具デザインを世界に知らしめるのにもサレスコは大きな役割を果たしていく。サレスコは成功を収め、その結果ウェグナーは家具業界の国際的なスターとなり、各国から問い合わせが殺到した。
しかし1955年、アイヴィン・コル・クリステンセンが新進のデザイナー、ポール・ケアホルムとの共同作業を理由に離脱。そしてホルガー・ハンセンの急死が追い討ちをかけた。1962年のことだった。2人が去った後のサレスコ自体は、その後1980年代まで家具業界史に残る業績を残すこととなる。
アイヴィン・コル・クリステンセンは、1950年代、「デザイン商人」として知られた。販売エージェントから始まり、後にポール・ケアホルムを見出し、1955年頃にケアホルムのデザインを制作することを唯一の目的として、「アイヴィン・コル・クリステンセン社」を設立した。
ポール・ケアホルムはウェグナー事務所で勤務していた経験があり、ケアホルムをコルに初めて紹介したのもウェグナーだった。異素材を混合したケアホルムの斬新なデザインがコルを虜にしたが、その素材の性質上サレスコの家具メーカーで生産することは明らかに不可能であり、コルがケアホルムの家具をやっていくことは、ウェグナーやカール・ハンセン&サン社を含むサレスコとの別離を意味した。
コルのケアホルム起用は勇気ある選択であった。無名だったばかりか、ウェグナーに比べそのデザインはアバンギャルドであり、販売は非常に難しいと思われた。しかし、コルは新しいものを見る目を持っていた。コルの計画は、ケアホルムの家具をパーツごとに専門の下請け業者に作らせ、それを倉庫で組み立てるというものであった。さらに、運搬費用を節約できることから、輸出にも向いていた。コルとケアホルムの共同作業はケアホルムが亡くなる1980年まで続き、その後はフリッツ・ハンセン社が販売の権利を継承。アイヴィン・コル・クリステンセン社で作られたオリジナル品は、現在ではコレクターズアイテムとして高額で取引されている。
カール・ハンセン&サン社の今
60年代と70年代のカール・ハンセン&サン社は低迷期であったが、1970年代半ばからカール・ハンセン&サン社にとって日本はそれなりの市場となっていた。ウェグナーのデザインは日本人のテイストに合い、たちまち一部でカルト的な存在となった。Yチェアを筆頭に他のモデルもクラシックデザインとして、90年代に注目を集めた。そして2002年、創始者カール・ハンセンの孫、クヌッド・エリック・ハンセンが、トップに就任。これを機にカール・ハンセン&サンはその知名度をより国際的なものにしていく。
ウェグナー亡き後も、ウェグナー事務所と密接な関係を保ち、ウェグナーが残した旧作の復刻、そして未発表デザインの発掘に力を注いでいる。今日、カール・ハンセン&サンではハンスJ.ウェグナーの家具を生産する最大のメーカーと言える。
また、これまで時代の中で廃業していった多くの名工が手がけてきた名作の生産を継承してきたカール・ハンセン&サン社だが、2011年以降は、コーア・クリント(Kaare Klint)やモーエンス・コッホ(Mogens Koch)の家具を製作してきた伝説的な家具工房 ルド・ラスムッセン社(Rud Rasmussen)、オーレ・ヴァンシャー(Ole Wanscher)の家具を製作していたPJファニチャー社(P.J Furniture)、ニールス・ロタ・アナセン社(Niels Roth Andersen)を傘下に収め、ウェグナーに大きな影響を与えたー世代前の巨匠たちによる名作家具の生産にも着手している。
直近の2017年以降は、ウェグナーの親友ボーエ・モーエンセン(Borge Mogensen)の家具を多く生産していたソボー・モブラー社(Søborg Møbelfabrik)、エアハルト・ラスムッセン社(Erhard Rasmussen)の商品も復刻を開始。これまで以上に、デンマークのデザインアイコンをグローバル市場に流通させ、国際的に保存・認知させる事を目的として、その責任を担っている。
そして、優れたデザインとサスティナビリティーを考慮した生産体制は、もはや切り離して語ることはできない。カール・ハンセン&サンはFSC®(森林協議会)認定の家具(FSC-C135991)を製造する資格を取得。それは後世のために責任を持って管理された森から採った木材を使用しているということを意味する。カール・ハンセン&サン社で使われている材木の樹齢は、ビーチ材で100-200年、オーク材で150-250年、ウォールナットで200年前後の樹齢のものが使われる。次の世代に森林を残すために、サスティナビリティーに優れた材木を使用し、計画的に生産されているのである。
創業100年を超えた現在、カール・ハンセン&サン社のコレクションは世界各地で受け継がれている。
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Products
Chair
CH33 Chair
1957年にカール・ハンセン&サン社にデザインされ、10年間生産されたモデル。2012年に生産が再開。初期のオーガニックなデザイン。
1962年カール・ハンセン&サン社のためにデザイン。60年代の直線的なラインと、50年代の彫刻的なフォルムの残る。
1965年にカール・ハンセン&サン社のためにデザイン。コンファレンスや教会用として頻繁に使用された。アームレスタイプのCH47、ラウンジチェアのCH44などもある。同じシェーカータイプのCH36と比較すると、より直線的なデザイン。
1955年にプロトタイプのみが製作されていた。ウェグナー生誕100年を記念して2014年に復刻。
Table
オリジナルは1982年にサレスコのメンバーであったゲタマ社(GETAMA)のためにウェグナーがデザインしたもの。その後、製造権がトラニケア社(Tranekaer Furniture)に移転したが、90年代にカール・ハンセン&サン社がトラニケア社を傘下に収め販売権を得る。バタフライ式のエクステンション(伸長式)・テーブルのため、片側だけ折り曲げて普段は壁面付で使用することが可能。無垢材テーブルながら比較的買いやすい価格なのも魅力。
CH327 Table
CH327はサレスコの元メンバーであるアンドレアス・ツック社(Andreas Tuck / ANDR. TUCK /1972年廃業)のために1962年にデザインされたものである。現在は、Carl Hansen & Sonが生産を引き継いでいる。
Hunting Table
2018年からは、ウェグナーの親友で共にデンマーク家具界を牽引したボーエ・モーエンセンのプロダクトも復刻している。
Sofa
サレスコのメンバーであったAPストーレン社(AP Stolen / 1974年廃業)のためにウェグナーが1965年にデザインしたソファ。
2012年に、カール・ハンセン&サン社より復刻。
1952年にAPストーレン社(AP Stolen / 1974年廃業)のためにウェグナーによってデザインされたもの。1人掛けのCH71チェアもある。2018年にカール・ハンセン&サン社より復刻。
Lounge Chair
OW149 Colonial Chair
1949年デザイン、1950年中期にP.J.ファニチャー社より生産が開始。1700年代の英国家具に影響を受けた細い優雅なラインが特徴。2012年よりカール・ハンセン&サン社が生産を継承した。
フリッツ・ヘニングセン1954年デザインの遺作。自らの工房で生産することにこだわったヘニングセンが「製造を委ねられる」と信用した工房は、カール・ハンセン社を含む2社のみ。2015年カール・ハンセン&サン社より復刻。
Storage
MK BOOKCASE & CABINET
モーエンス・コッホは1928年、自邸の小さな書斎に置く、フレキシブルに使用できる書棚をデザインした。あり継ぎ、さねはぎといった美しい接合部に、高度な家具職人技巧を見て取れる。1932年から90年以上、現在も生産が続いており、オリジナルは1869年創業の老舗の名工 ルド・ラスムッセン社(Rud. Rasmussen)。2011年廃業に追い込まれる直前、象徴的なデンマークの文化を継承するためカール・ハンセン&サン社が同社製品の生産を引き継ぎ、現在はGETAMA社が生産を行っている。
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